最近買った、マーラーのCDを紹介する。
一つは、マルクス・シュテンツ(Markus Stenz)が指揮した全集。
もう一点は、ベルトラン・ド・ビリーが指揮した第8交響曲。
マルクス・シュテンツ指揮ケルン・ギュルツェニヒ管弦楽団。OEHMS OC 029 (13CD)
今年4月にタワーレコードで買った。CDショップ店頭にあまり行かなくなった。久しぶりに覗いてみたときに買った8000円台だった。ネットでは7000円台で販売されている。メジャーの演奏家なら買わないが、このディスクの指揮者もオーケストラも全く知らない。そのほうが楽しみだ。
マルクス・シュテンツという指揮者は2010年にN響を客演し「復活」を指揮したみたいだ。放送されていると思うが記憶にない。
マーラーの全集で、どれもこれもいい、というディスクはない。テンシュテットのEMI盤が一番はずれが無い。前に書いているが、2番「復活」はまったく面白くない。他のは完成度が高い。あとは思いださない。このシュテンツ盤は7番以外はいい演奏だ。かなり完成度が高い。どの曲もテンポは少し早い目。それでいて「テンポが速い」と感じるところは少なかった。テンポの伸縮が多いが、不自然なところはない。それにオケがよく歌う。
なかなか満足することができない、2番、3番、8番、9番が傑出している。とくに9番は曲の冒頭から、指揮者のこの曲にたいする並みならない気持ちの入れ込みを感じた。冒頭の緊張感が最後まで持続した。僕のお気に入りのカラヤン盤とは比較はできないが、これはこれで名演だ。不満は7番。混乱していてごちゃごちゃの音楽になっている。 録音は明解。中低域の響きがやや薄い。そのためすっきりした印象。9番なんかカラヤン盤で聴かれる弦楽器の厚みのある響きとは比較にならない薄っぺらい響きだが、音楽に引き込まれる。お勧めする。
もう一点はこれ。中古盤で買った。マーラー 交響曲第8番「千人の交響曲」ウイーン・ジングアカデミー/スロバキア・フィルハーモニー合唱団/ウイーン少年合唱団ベルトラン・ド・ビリー指揮ウイーン放送交響楽団OEHMS OC-768 2010年3月27日ウイーンコンチェルトハウス大ホール
マーラーの交響曲で一番判りにくい(難解)のがこの交響曲第8番だ。理由ははっきりしている。副題の「一千人の交響曲」と言っている通り演奏者の人数が多すぎること。つまり声部が多すぎるのだ。
マーラーは、自分の作品は自分で初演した。そのリハーサルの途中や初演の後に楽譜を手を加えた。修正するというより、「音をどんどん加えた」とエピソードとして残されている。響きがどんどん厚みを増した。
ちょっと考えてみればすぐわかる話だ。8番のあと、「大地の歌」、9番、10番(未完、第1楽章のみオーケストレーレーションを仕上げた)は、自分で初演はできなかった。そのため、初稿(第一稿)だけで後からの手は入っていない。これらの作品は、オーケストラの響きは透明感があってとてもすっきりしている。8番までの作品がいかに音が多いか判る。
8番は、オーケストラだけでなく、大規模な合唱団、パイプオルガンが全曲に使われている。演奏する時に、音の響きの透明感を増すように、工夫すれま、この判りにくい音楽の見通しがかなり良くなる。オーケストラだけでなく、合唱の人数を減らし、優秀なメンバーはもちろん揃えなければならないが、そうすればかなり聴きゃすくなるはずだ。
先の全集のシュテンツ盤の8番とこのビリーの8番と比べると、響きの明解さは共通している。両盤ともこの曲を理解するのには、うってつけのディスクだと思う。ただ、シュテンツ盤は、全体に演奏の技術的な面で劣る。特に児童合唱はもたついている個所がある。
オーディオ的に「一千人」の大編成の演奏を録音し、そのスケール感を出すというディスクはいくつかある。一番うまくいっているのはセーゲルスタム盤(CHANDOS CHAN 9305/6)だ。録音された時の人数は不明だが、距離感があり大きなホールの空気感が伝わってきて、聴いていて心地いい。
デジタル録音で、録音技術が向上して、音がダンゴ状態になるというディスクは少ないが、それでこの8番という曲が理解しやすくなるということでもない。
2点ともオススメ盤。